2005年01月12日
葉巻ってやつ
まだお嬢さんだった頃、よく行くカフェにいつもいる人がいて、
わたしが煙草を吸わないのを知っていて言った。
「煙草を憶えるより、女の子は葉巻を吸ったらいいと思うよ」
その頃は葉巻といえばアル・カポネとかルーズベルトとか吉田茂とか
そんな豪胆オヤジしか思い浮かばなかったので
どういう発想なんだろうなと不思議に思った。
ホテルのシガーバーは、12階にあった。
ベルベットに宝石を撒いたようなというのは本当だと思う。
高すぎもせず低くもない12階のガラス越しに、
都会の光が吸い込まれるようにきれい。
立派なワインセラーのある、パラドールのようなワインバーを抜け、
奥のガラス扉の向こうにもうひとつ別の世界があった。
革張りのクラブチェアのあるサロン、ラウンジテーブルの上には四角い大振りの灰皿。
そして、ピカピカに磨き上げられたガラス張りのウォークイン・フュミドール。
フュミドールに入ると、葉巻のいい香り。熱帯の森のようだ。
湿度の高い空気の中の甘さを含んだ乾いた葉の香り。
整然と並んだ葉巻は、それぞれに装飾帯をつけて、美しい。
床まで開けた大きな窓のそばに並ぶクラブチェアにゆっくり座って、
甘い香りのする酒を飲みながら
一本の葉巻が尽きるまでの贅沢な時間。
どうやら、煙草は一服の清涼剤、シガーはゴージャスな時間を作り出してくれるものなのだろう。
ゆっくり傾けるコニャックのグラス、深く響く音楽、
懐かしい映画、大好きな絵画、お気に入りの車、
そういったものに近いのだと思った。
そして、昔聞いた言葉の意味がわかったのだ。
それは、女の子はゴージャスに育ちなさい、という意味だった。
贅沢を知り、贅沢を享受し、なおかつ崩れない、上品な人になりなさいという意味だったに違いない。
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